「がんの免疫療法って最近話題だけど、どんな治療法なのかな」
「保険適用外らしいけどなぜなのかな?費用も高いんだよね?」
このように、がんの免疫療法に興味を持っている方も多いのではないでしょうか。
近年注目されている治療法ですが、従来のがん治療と何が違うのか知らない方も多いでしょう。
そこで今回は、ガン免疫療法について解説します。気になる費用の相場なども紹介します。
ガン免疫療法について興味のある方もなんとなく知っておきたい人もぜひ参考にしてください。
ガンの免疫療法の費用相場と種類について
ガンの免疫療法:光免疫療法
光免疫療法とは、がん細胞のみに付着する特殊な薬剤を投与し、その薬剤にのみ反応する光を照射することで、がん細胞だけを破壊できるという画期的な治療法です。
楽天傘下の楽天メディカルによって光免疫療法イルミノックス治療が開発され、2020年9月には「切除不能な局所進行・局所再発頭頸部がん」への適用が承認され、2021年1月からは保険適用が認められています。
がん光免疫療法のメカニズムは、まず最初に選択的に特定のがん細胞に集まる薬剤を投与することから始まります。
その後、特定の波長を持つ光(近赤外線)を照射することによって、特定のがん細胞を壊死・排除させることを期待するというものです。
従来の化学療法や放射線治療では、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまうデメリットがありました。
光免疫療法では理論上がん細胞のみを攻撃することから注目されている治療法なのです。
光免疫療法の費用相場や治療期間投与回数
ガンの光免疫療法の費用は1回の治療で、薬剤費、装置代、手術費など全て合わせると700万円ほどになります。
4週間ごとに最大4回に渡って行うことがあり、患者にとっては大きな負担となるでしょう。
しかし「切除不能な局所進行・局所再発頭頸部がん」は2021年1月から保険適用が始まり、高額療養費制度の対象となりました。
患者さん自身の年収にもよりますが、3万5,000円から30万円程度にまで減額できます。
ただし、保険適用には制限があり、他の部位に転移している場合などは頭頸部がんであっても適用になりませんので、注意が必要です。
ガンの免疫療法:樹状細胞ワクチン療法
樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞がリンパ球にがんの目印を教えることで、がん細胞の破壊を促す免疫療法の一種です。
樹状細胞は、リンパ球などの免疫細胞にがん細胞などを異物と認識させて、攻撃させることができる細胞です。
「樹状細胞」を使って、リンパ球にがんの特徴を覚えこませます。
その樹状細胞から指令を受けた免疫細胞は、がんを特異的に攻撃し破壊することが期待されます。
がんは、通常、リンパ球やNK細胞などの免疫防御機構により破壊されますが、この免疫坊業機構を逃れて成長するがん細胞も存在します。
この成長したがん細胞は、通常の免疫機構では防御できません。
樹状細胞ワクチン療法は、このような免疫防御機構から逃れて成長をはじめたがんに対して、再度がんを攻撃するように指令を与えることを期待できる治療法なのです。
樹状細胞ワクチン療法は、がんの切除手術や抗がん剤治療、放射線療法などの一般的ながん治療と組み合わせることで、相乗効果を狙う療法です。
樹状細胞ワクチン療法の費用相場や治療期間投与回数
樹状細胞ワクチン療法は、現在保険適用外となっており、全額自己負担の自由診療です。
参考例として、樹状細胞ワクチンを取り扱う東京ミッドタウン先端医療研究所での費用は、1クール(ワクチン5~7回分)およそ280万円です。
ワクチンは、約2週間に1回のペースで、計5~7回に分けて接種されます。検査や採血、ワクチンの注射はすべて、通院にて対応できるため、原則入院する必要はありません。
ガンの免疫療法:NK細胞療法
NK細胞療法は、自己の血液中のNK細胞を高活性化培養し、点滴で体内に戻してがん細胞を攻撃し、破壊することを期待するガン免疫療法の一種です。
NK細胞には、がん細胞を直接攻撃できるという機能があります。
成長したがん細胞は、免疫機構をくぐりぬけてきた細胞であり、通常の免疫機構では対処できないじょうたいになっています。
しかし、NK細胞療法により活性化したNK細胞によって、直接及び間接的にがん細胞を攻撃することで、がん細胞を縮小させたり、がんの進行を抑制したりする効果が期待できるのです。
抗がん剤治療による免疫抑制で、がん細胞に対する抵抗力も落ちてしまった場合の免疫増強など、がんの再発を抑制するための予防にも効果が期待できます。
樹状細胞ワクチン療法と同様に、NK細胞療法も切除手術や抗がん剤治療、放射線療法などの一般的ながん治療と組み合わせることで有効性が期待できる治療法となっています。
NK細胞療法の費用相場や治療期間投与回数
NK細胞療法は、現在保険適用外となっており、全額自己負担の自由診療です。
参考例として、NK細胞療法を取り扱う博多駅前クリニックでの費用は、1クール(NK細胞点滴6回分)でおよそ230万円です。
初回は血液を採取し、約2週間をかけて、血液の中のNK細胞を増殖・活性化させます。
この活性化NK細胞を点滴することで再び体内に戻し、がん細胞への攻撃を狙います。
その後2週間ごとに採血と点滴を行います。採決と点滴だけなので通院のみで対応できます。入院する必要はありません。
ガンの免疫療法:NKT細胞療法
NKT細胞療法は、がんへの攻撃を担当する免疫細胞のNK細胞とT細胞を活性化させることで、持続的にがん細胞への攻撃を期待する治療法です。
NKT細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞に続く「第4のリンパ球」と呼ばれています。
通常、病原体や異物への感染防御において、欠かせない免疫細胞として働いているのです。
ただし、自己の正常細胞からできたがん細胞に対しては、NKT細胞は十分な働きをすることはできません。そのため。
NKT細胞を人工的に活性化する物質「αGalCer」を加えることで、NKT細胞は活性化することができます。
活性化されたNKT細胞は、がん細胞を直接攻撃するだけでなく、がん細胞のチェックポイント機能(免疫機能を低下させる機能)を阻害することも期待できます。
また、活性化NKT細胞には、がんに対する免疫を記憶する幹細胞を作る機能も備わっているため。がん細胞に対する免疫を長期間保持することが期待されます。
NKT細胞療法の費用相場や治療期間投与回数
NKT細胞療法は、現在保険適用外となっており、全額自己負担の自由診療です。
NKT細胞療法の費用は、1クール(NKT細胞点滴4回分)でおよそ350万円です。
初回は血液を採取し、約2週間をかけて、血液中のNKT細胞を増殖・活性化させます。
この活性化NKT細胞を点滴することで再び体内に戻し、がん細胞への攻撃を狙います。
その後2~3週間ごとに採血と点滴を行います。採決と点滴だけなので通院のみで対応できます。入院する必要はありません。
免疫療法って聞く人と聞かない人の違いは?
ガン免疫療法は、すべてのがん患者に効果があるわけではありません。ここからは、免疫療法が効く人と効かない人の特徴を紹介します。
免疫療法が効く人
免疫療法が効く人の特徴は以下の通りです。
- 体力があり、免疫機能が十分に働いていると考えられる人
- 早期のがんで他の部位に転移が認められない人
- 特定の遺伝子変化を有しており、免疫療法薬の効果が強く出やすい人
ガン免疫療法は、体の免疫機能を使ってがん細胞を攻撃する治療法です。
体力があり、体の免疫機能が十分機能していると考えられる人は、免疫療法の効果が出やすいと考えられます。
また早期のがんで転移が進んでいないがんであれば、免疫療法に対する耐性を持っていないと考えられるため、免疫療法による効果が期待できます。
ガン免疫療法は、直接がん細胞を攻撃するだけではありません。
がん細胞のチェックポイント効果を阻害することでも抗がん作用を発揮します。
がん細胞の遺伝子がMSI-high(高頻度マクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復機能欠損)などの特定の変異を起こしている場合、チェックポイント阻害効果が発揮されやすいことが知られています。
免疫療法が効かない人
対して、免疫療法が効かない人の特徴は以下の通りです。
- 体力が低下し、免疫機能が正常に働いていない人
- がんが進行し、他の部位への広範囲に転移を起こしている人
- 免疫抑制剤を普段から服用している人
体力が低下し、免疫機能が十分に働いていない人は、免疫療法がしっかりと作用しない可能性があります。
また。がんが進行し、広範囲に転移しているような状態だと、成長したがん細胞が免疫療法に対する耐性を獲得している場合も考えられるため、早期のがんよりも効きにくい可能性があります。
自己免疫疾患(皮膚筋炎、全身性強皮症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、クローン病、多発性硬化症、シェーグレン症候群など)を持つ患者は普段から免疫抑制剤を使用しています。
このような患者は正常な免疫機能が働いていないと考えられるため、免疫療法が効きにくいと考えられています。
今までのガン治療と免疫療法との違いについて
- 副作用が少ない
- 通院しながらの治療ができる
- 転移や再発したガンにも有効できる
- 免疫療法は保険適用の場合が少ない
副作用が少ない
ガン免疫療法では、抗がん剤による化学療法や放射線治療などの一般的ながん治療で起こりやすい「吐き気」「脱毛」などの副作用は少ないと報告されています。
今回紹介した光免疫療法や、樹状細胞ワクチン療法、NK細胞療法、NKT細胞療法は正常な細胞は攻撃せず、特定のがん細胞にのみ効果を発揮するという作用機序から考えても、従来のがん治療と比べると、副作用は少ないと考えられます。
しかし、今回紹介した治療法を含めたガン免疫療法は、まだまだ研究中の治療法が多く、症例も少ないのが実情です。
今後新たに重篤な副作用が出てくる可能性がありますので、注意しておく必要があります。
通院しながらの治療ができる
ガン免疫療法は、通院しながら治療ができる治療法が多いです。
樹状細胞ワクチン療法やNK細胞療法、NKT細胞療法に関しては、採血や点滴治療のみになりますので、入院する必要はありません。
がん切除手術はもちろん入院が必要になりますし、化学療法、放射線治療は、重度の副作用が出ることがあり、体力面に不安がある患者さんは入院管理による治療が必要になることもあります。
その点では、免疫療法は比較的副作用が少なく入院する必要がないことは患者さんにとってメリットといえるでしょう。
ただし、光免疫療法だけは、光線過敏症などの副作用を防ぐため、近赤外線照射後1週間程度は入院する必要があります。
転移や再発したガンにも有効できる
ガン免疫療法は、免疫細胞により持続的かつ特異的にがん細胞を攻撃し、がん細胞のチェックポイント阻害作用をもつ治療法です。
つまり、理論上はどのがんにも効果を発揮する可能性があります。
手術不能のがんや、放射線照射が難しい部位のがん、広範囲に転移し化学療法では根治が難しいがんなど、現在主流となっているがん治療では治療することが難しいがんは存在します。
このような難治性のがんに対しても、免疫療法を試すことはできるでしょう。
もちろん、免疫機能が低下してしまったり、がん細胞が免疫療法に耐性を持っている場合などは免疫療法でも効果がない場合もあります。
現在では、一般的ながん治療と免疫療法を組み合わせる治療も進められています。
免疫療法は保険適用の場合が少ない
今後のがん治療において、免疫療法は期待される治療法となり得るかもしれませんが、デメリットもあります。
免疫療法は、保険適用できるものが少ないことがネックとなっています。
現状保険適用となっている免疫療法は、オプジーボなどのチェックポイント阻害薬と光免疫療法のみです。
保険適用が認められている光免疫療法にしても、適用となるの「切除不能な局所進行・局所再発頭頸部がん」のみであり、他の部位に転移した場合は保険適用外となってしまいます。
その他の免疫療法は全て保険適用外の自由診療となり、費用も300万円前後とかなり高額です。
現状では、富裕層など、高所得階級にしか選択肢となり得ない治療法といえるでしょう。
免疫細胞療法のデメリットやリスク
- まだデータとしての治療実績が少ない
- 薬のような即効性がない
- 病院に行っての当日すぐに治療はできない
まだデータとしての治療実績が少ない
免疫細胞療法のデメリットやリスクとして、まず挙げられるのが治療実績が少ないということです。
多くの治療実績がある抗がん剤や放射線治療と違い、免疫細胞療法は現在も研究段階の治療法が多く、治験の実績も少ないのが実情です。
現段階では、自己の免疫機能を元に治療を進めていくという治療の性格上、副作用が少ないと考えられています。
しかし、免疫細胞療法は、そもそも治療実績が少ないため、当然副作用の報告も少ないです。
今後、新たに重篤な副作用が起こる可能性もあるため、治療を行う際はしっかりと検討するようにしてください。
薬のような即効性がない
免疫細胞療法は、まず樹状細胞やNK細胞、NKT細胞を培養、活性化する必要があるため、薬のような即効性は期待できません。
一定期間採血と点滴を繰り返すことで、がん細胞に対する免疫機能を蓄積していくのです。
免疫細胞療法は、がん治療の土台と位置づけるようにしましょう。
例えば、現状ではがんの切除は難しいが、免疫細胞療法と組み合わせることで切除が可能になったりする場合もあります。
メインの治療は化学療法や放射線治療で行い、再発や転移を予防するために免疫細胞療法で補完することもできるでしょう。
免疫細胞療法は、化学療法や放射線治療といった従来の実績のあるがん治療と組み合わせることで、より効果を発揮していく治療法なのです。
病院に行っての当日すぐに治療はできない
免疫細胞療法は、初めて通院した日に即治療を始めることができるわけではありません。
まず、免疫細胞療法が可能かどうかを判断するために、血液検査や画像検査などの検査を行う必要があります。
この検査でがん細胞の生検も行います。治療可能かどうかで2〜3週間ほどかかります。
治療可能であれば、採血を行い、免疫細胞の培養・活性化を行います。ここで再び2〜3週間ほどかかることが多いです。
その後は、活性化した免疫細胞を点滴で体内に戻すと同時に、採血を行い次回点滴用の免疫細胞を採取します。このサイクルを2週間ごとに行い、1クール(細胞の種類によって回数は前後します)治療を行なっていきます。
がんの免疫療法の費用は保険適用されないのはなぜ?
多くのガン免疫療法が保険適用とならないのはなぜでしょうか。
まず、治療実績が少なく、臨床データが不足しているということが最大の理由です。
保険適用となるためには、大規模な治験を行い、効果と安全性がしっかり担保される必要があるのです。
ガン免疫療法は、現時点において標準治療に匹敵するほどのデータ(科学的根拠)は集まっていないため、保険適用となるだけのエビデンスがありません。
また、免疫細胞療法は一人一人の免疫細胞を細胞を培養・活性化するという治療の性格上、大量生産ができず、臨床成績を蓄積する時間も費用も莫大になってしまいます。
このことから、免疫細胞療法が保険適用になるためには、まだまだ時間がかかるというのが現状です。
ガンの免疫療法のまとめ
今回は、ガン免疫療法について解説してきました。
手術によるがん切除、化学療法、放射線治療の3つのがんの標準治療に加えて、近年ガン免疫療法が注目されています。
免疫療法は、自己の免疫機構に基づいたがん治療のため、がん細胞を特異的に攻撃することが期待できます。
そのため、標準治療よりも副作用が少ないというメリットが考えられます。
免疫療法はほとんどが自由診療で、高額な治療費が負担になるという問題点もありますが、標準治療と組み合わせる治療も確立しつつあります。